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介護事業所の労務管理 ここをチェック!

はじめに

労務管理というとほぼ全ての会社で発生する業務となりますが、介護事業の労務管理は一般的な会社と比べ、難しいと言われております。
例えば、勤務時間や雇用形態が複数あることなど管理項目が多岐に渡るためとも言われております。
このページでは、当事務所のブロクに掲載しているもののなかから、私が重要と考える介護事業の労務管理のチェックポイントを介護の現場を28年経験した社会保険労務士が解説いたします。

チェックポイント①

変形労働時間制について

解説

変形労働時間制について
解説① 指定介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)・介護老人保健施設といった介護保険施設、短期入所サービスを提供するサービス提供事業所については、1ケ月単位の変形労働時間制により勤務シフトを作成していると思います。
1ケ月単位の変形労働時間制で注意しなければならないことは、その月の歴日数でシフトを作らなければならないということです。私がこのように書くのは、施設や事業所には4週間で区切ってシフトを組んでいることがみられますが、これは1ケ月単位の変形労働時間制とはなりません。1月なら31日、2月なら28日または29日、3月なら31日でシフトを作ってください。4週間単位でシフトを組んでいる場合は、そもそも変形労働時間制とはならないこととなります。


解説② 3交替制(日勤・準夜勤・深夜勤)の8時間勤務である場合は、終業の時刻から始業の時刻まで連続して24時間休息を与えることで休日となります。労働基準法では原則として週1回の休日を与えることが義務付けられていますが、変形休日として、4週間に4日の休日を与えることで、週1回の原則の休日を与える必要はないということになっています。介護の現場は、慢性的な人手不足なので、この変形休日を考えるのであれば、連続した24時間の休息が確保できているかどうかに注意を払う必要があります。


解説③ 1ケ月単位の変形労働時間制に係る時間外労働の管理は特に重要です。しらずしらずのうちに未払い賃金が生じないようにしてください。具体的には、1日8時間以内のシフトの場合は、8時間を超えた部分が割増賃金の対象となる時間となり、1日8時間超えのシフトの場合、たとえば、あらかじめシフト表において勤務時間が9時間とされている場合は、9時間を超えた時間が割増賃金の対象となる時間となります。また、週単位でみると、週40時間内の勤務であれば、40時間を超える時間が割増賃金の対象となる時間となり、週40時間を超える勤務であれば、その超えた時間が割増賃金の対象となる時間となります。ただし、1日単位で計算した割増賃金の対象となる時間を除きます。
最後に月単位でみると、31日の月は177時間を超えた時間が割増賃金の対象となる時間となり、30日の月は171時間を超える時間が割増賃金の対象となる時間となり、29日の月は165時間を超える時間、28日の月は160時間を超える時間が、それぞれ割増賃金の対象となる時間となります。ただし、1日単位および週単位で計算した割増賃金の対象となる時間は除きます。

チェックポイント②

「同一労働同一賃金」について(重要)

解説

介護事業所を含め、中小企業・小規模事業者に対して、2021年4月1日より「同一労働同一賃金」が適用されています。
この「同一労働同一賃金」については、私は再三触れておりますが、あまり関心がないように感じられ、非常に残念に思っております。
2020年10月13日・15日には「同一労働同一賃金」に関する最高裁判決が出されています。「地方だから、田舎だから私たちには関係ない」と思っていらっしゃるのであれば、それは間違いであり、労使紛争を生む要因となりかねません。

「同一労働同一賃金」の概要は以下のとおりです。
「同一労働同一賃金」とは、事業所内に正職員とパートタイム従業員、有期雇用契約といった、いわゆる非正規従業員を雇用している場合で、基本給・賞与・各種手当・福利厚生・教育訓練といったすべての待遇に差が生じている場合に、その待遇差が合理的であり、かつその合理性を説明できなければならず、いわゆる非正規の従業員から説明を求められた場合も事業主は説明する義務を負います。
「同一労働同一賃金」は正規の職員と非正規職員との待遇差が問題となるものであり、正規職員間の待遇差および非正規職員間の待遇差は問題とはなりません。「同一労働同一賃金」の目的は、正規職員の待遇と非正規職員の待遇を合理的なものにするというものですが、その待遇差が合理的か不合理かの最終判断は司法の場に委ねられることとなります。そうならないためにも、労使間で待遇のあり方について十分に話し合いながら点検・作業を進めていく必要があります。
同一労働同一賃金についてはこちらでも詳しく解説しております。

チェックポイント③

労働時間管理について

解説

労働時間管理について
解説① 労働時間管理については、2020年4月1日より、一部の事業を除き、介護事業所を含む中小企業・小規模事業者に対して「時間外労働の上限規制」が適用されています。

具体的には、時間外労働の上限は、原則として月45時間かつ年360時間となってりおり、これに違反した場合は6ケ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。ここで重要なことは、どのようにして労働時間を管理するかということです。労働時間管理の具体的な方法としては、タイムカードによる記録、パソコンなどの使用記録等の客観的な方法や使用者による現認が原則であり、これらの方法をとることができず、やむを得ない場合には、適正な申告を阻害しない等の適切な措置を講じたうえで自己申告によることができることとなっています。なお、出勤簿・タイムカード・36(サブロク)協定書・残業命令書および報告書は3年間保存しなければならないこととなっていますので、ご注意ください。
そして、タイムカードで労働時間を把握・管理することとなっている場合には、必ず本人が打刻してください。なお、「時間外労働の上限規制」には「法定休日の労働時間」も含まれると同時に、時間外労働・休日労働時間であっても使用者は従業員に対して安全配慮義務を負うことにもご注意ください。


解説② 労働時間の管理に関連して、36(サブロク)協定についても触れておきます。36(サブロク)協定は使用者が労働者に対して、時間外労働・休日労働を行わせるにあたっては必要な協定届です。この36(サブロク)協定届について、介護事業所を含む中小企業については、2020年4月1日より新様式となっています。

使用者と労働者との間で締結すべき事項は以下のとおりです。
①労働時間を延長し、または休日に労働させることができる場合
②労働時間を延長し、または休日に労働させることができる労働者の範囲
③対象期間(1年間に限る)
④1年間の起算日
⑤対象期間における、1日・1ケ月・1年のそれぞれの労働時間を延長し、労働させることができる時間または労働させることができる休日
④有効期間
⑤時間外労働と法定休日労働時間の合計が、月100時間未満かつ2月~6ケ月のどの月をとっても平均して80時間以内を満たすこと となっています。
また、36(サブロク)協定については、所轄労働基準監督署へ届出るだけでは、労働者に時間外労働・休日労働を行わせることができる民事上の効力は生じず、就業規則に定めて初めて、時間外労働・休日労働を行わせることができることにご注意ください。
さらには、36(サブロク)協定届(書)は労働者に対して周知しなければならないことにもご注意ください。私は前職時代、36(サブロク)協定届(書)というものをみたことがありませでした。


解説③ 36(サブロク)協定は、会社・事業所に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合は、その労働組合と、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は、労働者のの過半数を代表する者と締結しますが、ここで問題となるのが、労働者の過半数を代表する者と締結する場合です。労働者の過半数を代表する者を選出するにあたっては、労使協定を締結する従業員を選出することを明らかにして挙手・投票等による民主的方法で選出されなければならず、使用者が恣意的に選出した者は「労働者の過半数を代表する者」にあたりません。したがって、そのようにして選出された従業員と締結した労使協定は無効となりす。
私は前職時代、「労働者の過半数を代表する者」がどの職員なのか知りませんでした。このようなことがないよう、ぜひ、上記の方法で民主的に選出していただきたいと思います。

チェックポイント④

ハラスメント対策について

解説

ハラスメント対策について
ハラスメント対策については、2020年6月1日より「改正労働施策総合推進法」が施行されており、これにより「職場におけるパワーハラスメント防止対策」が事業主に義務付けられています。
中小企業については、2022年4月1日より「職場におけるパワーハラスメント防止対策」は義務となり、2022年3月31日までは努力義務となるわけですが、努力義務だからといって、努力義務の範囲におさまっていいとうものでは当然ありません。ハラスメント対策については、この改正労働施策総合推進法とあわせて、男女雇用機会均等法および育児介護休業法の一部が改正されており、「職場におけるセクシュアルハラスメント」「職場における妊娠・出産・育児等に関するハラスメント」の防止対策も強化されています。職場におけるパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントなどのハラスメントは、働く人が能力を十分に発揮することの妨げになるばかりか、その人の尊厳や人格を不当に傷付けるといった人権に関わる許されざる行為です。会社・事業所にとっても職場の秩序の乱れや業務への支障が生じたり、貴重な人材の損失にもつながり、社会的評価にも悪影響を与えかねません。ましてや、ハラスメントに起因して訴訟に発展すればなおさらのことです。事業主のみなさまにおかれましては、就業規則にハラスメント対策に関する委任規定を設けたうえで、別途、「ハラスメント対策規程」を作成し、適切な雇用管理上の措置を講じていただきたいと思います。
なお、令和3年4月1日の介護報酬の改定に伴い、運営に関する基準において、セクシュアルハラスメント・パワーハラスメントの防止のため事業主が講ずべき措置の具体的内容が規定されています。

チェックポイント⑤

ストレスチェックについて

解説

解説① ストレスチェック制度は、労働安全衛生法の改正により、平成27年12月1日より施行されています。ストレスが多いとされる現代社会において、また、現在のコロナ禍において人々のストレスは高まっていると思います。私の前職は、いわゆるエッセンシャルワーカーであったことからテレワークの経験はありませんが、通勤して仕事をするということが当たり前であったスタイルからテレワークへ移行することは多くのストレスを抱えることとなると思います。そういった意味でも従業員のメンタルヘルスを維持するための重要性はいままでよりも高まっているといえます。この「ストレスチェック制度」は常時50人以上の従業員を使用する事業業は年1回、ストレスチェックテストを実施しなければならないこととなっています。事業主のみなさま方におかれましては、メンタルヘルス対策を積極的に推進し、従業員はストレスチェックにより、自身のストレスの状況を把握して適切に対応していください。特に、介護施設や医療機関には夜勤があります。本来、人は昼に活動して夜に寝るという生活スタイルのところ、夜勤はそれが逆になり、それだけでもストレスは高まるものと思います。このストレスチェックテストについては、従業員は必ず受けなければならないというものではありませんが、上記の理由から積極的に受けてください。また、事業主の立場からみると、ストレスチェックテストを実施しなかった場合でも罰則はありません。しかし、「ストレスチェックテスト検査結果等報告書」を労働基準監督署へ提出しなかった場合は罰則が用意されています。要は、罰則のあるなしに関わらず、従業員のメンタルヘルス維持のために適法にストレスチェックテストを実施していただきたいと思います。


解説② ストレスチェック制度に関連して、衛生委員会について触れておきます。衛生委員会は、業種を問わず、常時50人以上の従業員を使用する事業場について設置しなければならず、産業医・衛生管理者・当該事業場の職員などから構成され、衛生委員会における調査審議事項に①長時間にわたる労働による労働者の健康管理の防止を図るための対策の樹立に関すること ②労働者の精神的健康の保持増進を図るための対策の樹立に関することという事項があります。衛生委員会は、月に1回以上開催して、その議事の概要を従業員に周知しなければならないとこととなっています。衛生委員会を適法・適切に開催して従業員のメンタルヘルスを維持していただきたいと思います。

チェックポイント⑥

訪問介護における移動時間・待機時間・休業手当・賃金の取扱いについて(重要)

解説

訪問介護における移動時間・待機時間・休業手当・賃金の取扱いについて(重要)
訪問介護における移動時間・待機時間・休業手当・賃金の取扱いについては、平成16年8月27日付け基発第0827001号「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」および令和3年1月15日付け厚生労働省認知症施策・地域介護推進課発「訪問介護労働者の移動時間等の取扱いについて」(周知徹底)に示されています。まず、移動時間の取扱いから。
解説① 訪問介護の移動時間については、使用者が業務に従業するために必要な移動を命じ、当該移動時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる場合には、労働時間に該当するものである。たとえば、訪問介護の業務に従事するために事業所から利用者宅への移動に要した時間や、訪問介護を終えた利用者宅から次の利用者宅への移動時間であって、その移動時間が通常の移動に要する時間程度であれば労働時間に該当するものである。


解説② 待機時間、つまり「手待ち時間」の取扱いについては、使用者が急な需要等に対応するため、事業所において待機を命じ、当該待機時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる場合には、労働時間に該当するものである。


解説③ 休業手当については、労働日およびその勤務時間帯が勤務表により訪問介護労働者に示され、特定されたあと、労働者が労働の準備をしたにもかかわらず休業させ、これが使用者の責めに帰すべき事由によるものである場合は、事業主は休業手当として平均賃金の60%以上の手当を支払わなければならない。具体的には、利用者からの利用の申込みの撤回、利用時間帯の変更を理由として労働者を休業させる場合には、他の利用者宅での勤務の可能性など、当該労働者に代わりの業務を行わせる可能性などを十分に検討し、最善の努力を尽くしたと認められない場合は、事業主の責めに帰すべき事由があるものとして休業手当の支払いが必要となります。
(休業手当に関する規定)
労働基準法第26条 「使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は休業期間中、当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない」
なお、「使用者の責めに帰すべき事由」は広く解釈されることに注意が必要です。
解説④ 賃金については、労働者の賃金を変更する場合には、当該労働者本人の合意を得る必要があり、合意のないものは無効となる。
上記事項のなかでも、訪問介護事業における労働基準法の取扱いについて特に留意すべきは移動時間・待機時間となっています。

オフィスマツムラでできること

介護事業の労務管理は複雑なものとなります。制度や法律により管理の方法や仕方が変わっていくこともあります。
お困りの際はお気軽にオフィスマツムラまでご相談ください。それぞれの施設・事業所にあった、より最適なご提案、サポートをさせていただきます。
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