年金制度改正法について
年金制度改正法とは
「年金制度改正法」は令和2年5月29日に成立し、6月5日に公布されています。
この「年金制度改正法」には、
(1)被用者保険(厚生年金保険・健康保険)の適用拡大
(2)在職中の年金受給(在職老齢年金)のあり方の見直し
(3)受給開始時期の選択肢の拡大
(4)確定拠出年金の加入要件の見直し
などが規定されています。
このページでは、(1)被用者保険(厚生年金保険・健康保険)の適用拡大についてお伝えします。
「年金制度改正法」の趣旨は、「より多くの人が、より長く多様なかたちで働く社会へと変化するなかで、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図るため、短時間労働者に対する被用者保険(厚生年金保険・健康保険)の適用拡大、在職中の年金受給のあり方の見直し、年金受給開始時期の選択肢の拡大、確定拠出年金の加入可能要件の見直し等の措置を講ずる」となっています。
要するに、少子高齢社会を受けて「より多くの人がこれまでよりも長い期間にわたり、多様なかたちで働くようになることが見込まれるなかで、今後の社会・経済の変化を年金制度に反映し、長期化する高齢期の経済基盤の充実を図るためのもの」ということになります。
我が国における平均寿命の延伸と少子化社会の進展によって、老後の生活を年金のみで賄うことは、国の財政面においても難しいのではないかと思います。
対象となる企業
①2022((令和4)年10月からの対象企業
2022(令和4)年10月から、従業員数101人~500人の企業で働く下記の要件を満たす短時間労働者が新たに被用者保険(厚生年金保険・健康保険)の適用になります。
②2024(令和6)年10月からの対象企業
2024(令和6)年10月から、従業員数51人~100人の企業で働く下記の要件を満たす短時間労働者が新たに被用者保険(厚生年金保険・健康保険)の適用になります。
新たな加入対象者
新たな加入対象者は、以下の要件を満たす短時間労働者の方です。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が8.8万円以上
- 2ヶ月を超えて雇用の見込みがある
- 学生ではないこと
社会保険適用拡大とキャリアップ助成金
従業員数が101人以上500人以下の企業で働くパートさん、アルバイトさんであって上記の要件を満たす場合は2022年10月1日より社会保険に強制加入となります。
社会保険の適用拡大とキャリアップ助成金の関係は、2022年9月30日までに労使協定を締結して社会保険に加入させることにより、キャリアアップ助成金の「選択的適用拡大コース」を受給することができます。
具体的には
・社会保険労務士などの専門家を活用して従業員とコミュニケーションをとり適用拡大を行った場合は19万円
・さらに、社会保険加入の際に基本給も増額した場合は19,000円~132,000円
・さらに、人事評価制度の仕組みや研修制度を整備した場合は10万円 を受給することができます。
遅かれ早かれ社会保険に加入させなければならないのであればキャリアアップ助成金の「選択的適用拡大コース」を活用して適用拡大を進めていくほうがよいように思います。
ぜひ、ご検討されてみてください。
被用者保険(厚生年金保険・健康保険)に加入して何が変わるのですか?
Q:現在、パートで働いている主婦ですが、被用者保険が適用されるメリットは何ですか?
A:①厚生年金保険に加入すると、老齢基礎年金に上乗せされて、老齢厚生年金を受給することができます。また、疾病や事故等により、障害が残った場合には、所定の要件を満たすことにより、障害基礎年金と障害厚生年金を受給することができます。障害基礎年金の障害等級は1級・2級までですが、障害厚生年金の障害等級は1級・2級・3級と3級まであります。
したがって、障害基礎年金の障害等級1級・2級に該当しない場合であっても、障害厚生年金の障害等級3級に該当すれば、障害厚生年金を受給できる場合があり、さらには、障害厚生年金3級に該当しない場合であっても、障害手当金を受給できる場合があります。
厚生年金保険の被保険者がお亡くなりになられた場合は、一定のご遺族に遺族厚生年金が支給されます。
②健康保険については、健康保険の被保険者が出産された場合は「出産手当金」が、業務外の疾病・負傷等により、働くことができなくなった場合は、最大で1年6ケ月間、「傷病手当金」を受給することができます。被用者保険(厚生年金保険・健康保険)に加入すると、会社と被保険者折半で保険料を納めることとなりますが、 生活保障・所得保障がより充実することとなります。
Q:現在、年収130万円を超えないように働く時間を抑えて働いています。被用者保険(厚生年金保険・健康保険)に加入すると、年収130万円の基準が年収106万円(8.8万円)になるのでしょうか?
A:①被用者保険(厚生年金保険・健康保険)の適用拡大の対象とならない場合:
現在、配偶者の被扶養者となられている方で、被用者保険(厚生年金保険・健康保険)の適用拡大の対象とならない場合で年収130万円を超えた場合は配偶者の被扶養者から外れて、国民年金・国民健康保険に加入することとなります。
②被用者保険(厚生年金保険・健康保険)の適用拡大の対象となる場合:
被用者保険(厚生年金保険・健康保険)の適用拡大の対象となる場合は、月収88,000円以上(年収換算106万円)で被扶養者から外れることとなり、被用者保険(厚生年金保険・健康保険)に加入することとなります。保険料の負担、受けることができる年金については上記のとおりです。
国民年金・国民健康保険との違い
ここでご理解いただきたいのは、国民年金・国民健康保険というのは、本来、自営業者や学生さんのために用意された制度であるということです。会社で働いている短時間労働者の方々で加入要件を満たす場合は、これを機に被用者保険(厚生年金保険・健康保険)に加入されたほうがいいと思っています。被用者保険(厚生年金保険・健康保険))に加入することで、当然、保険料を支払う必要が生じてきます。特に、国民年金の第3号被保険者の方々は、ご自身で保険料を納付することなく国民年金に加入していますので、躊躇されることとは思いますが、将来のことを考えれば、被用者保険(厚生年金保険・健康保険)に加入することにより、厚生年金を受給することができ、健康保険の出産手当金や傷病手当金などの保険給付を受給することもできるようになり、生活保障・所得保障として手厚くなります。
在職中の年金受給の見直しについて
このページでは、(2)在職中の年金受給(在職老齢年金)のあり方の見直しについてお伝えします。
まず、年金を受給しつつ、厚生年金に加入して働くことを「在職老齢年金」といいます。
この「在職老齢年金」の制度が見直されるのですが、制度そのものが複雑です。
改正内容の施行日は令和4年4月1日です。
(60歳~64歳までの在職老齢年金の現行制度と見直しの内容)
・「在職老齢年金」には、「60歳~64歳までの在職老齢年金」と「65歳以後の在職老齢年金」とがあります。
「60歳~64歳までの在職老齢年金」の見直しの内容は、賞与を含めた月収(これを総報酬月額相当額)といいます)と加給年金額を除く年金月額の合計が28万円を超えると、年金の一部または全部が支給停止されることとなっているところ、「28万円」が「47万円」に引き上げられます。
この改正の趣旨は、②現行の「28万円」が就労に一定程度の影響を与えている ②制度をわかりやすくする といったことになります。
(改正でこう変わります)
・賞与を含む月収(総報酬月額相当額)と年金月額の合計が「47万円以下」であれば年金は支給停止されません。
・賞与を含む月収(総報酬月額相当額)と年金月額の合計が「47万円を超える」場合は、(総報酬月額相当額+年金月額ー47万円)÷2の計算式で得た年金月額が支給停止となります。
(65歳以後の在職老齢年金における在職時定時改定の導入)
・現在の65歳以後の在職老齢年金では、退職したとき、または70歳に達したときの資格喪失時に、65歳以後の厚生年金への加入期間を加えて年金額が改定されることとなっており、これを退職時改定といいます。
改正の内容は、上記の資格喪失を待たずに1年に1回、それまでの厚生年金への加入期間を反映して年金額が改定されることとなり、これを在職時定時改定と呼びます。
具体的には、年1回、9月1日を基準日として直近1年間の標準報酬月額を反映して年金額が計算し直され、10月分から改定された年金額が支給されることとなります。
年金受給に関して、「損」 「得」という表現は適切ではないとは思いますが、ご自身の状況を総合的に判断されて受給開始年齢を選択されてはいかがでしょうか。
ただ、繰り上げ受給は、できれば避けたいところです。
受給開始時期の選択肢の拡大
このページでは、(3)受給開始時期の選択肢の拡大についてお伝えします。
受給開始時期の選択肢拡大の施行日は、令和4年4月1日です。
年金は原則として、65歳から受給することができますが、60歳から受給することもできますし(繰り上げ受給)、65歳よりあとに受給する(繰り下げ受給)こともできます。
現行制度での繰り下げ受給の上限年齢は70歳ですが、改正後は75歳まで繰り下げて受給することができます。年金を繰り下げて受給すれば増額されることとなりますが、増額率は0.7%です。
たとえば、65歳から受給できる年金を75歳まで繰り下げて受給するとした場合は、120月×0.7%=84%増額されることとなります。
一方、60歳に繰り上げて受給する場合は本来の年金額から減額されます。減額率は0.4%で、60月×0.4%=24%の減額となり、この減額は年金を受給する間、減額され続けます。65歳に達したときにリセットされるということはありません。
また、老齢基礎年金と老齢厚生年金を受給することができる場合は、両方の年金を同時に繰り上げて受給しなければなりません。一方の年金だけを繰り上げて受給することはできません。
繰り下げて受給する場合は、老齢基礎年金、老齢厚生年金のどちらかを繰り下げて受給することができます。
この見直しの趣旨は、「高齢期の就労の拡大等を踏まえて、高齢者自身の就労状況等に合わせて年金受給の方法を選択できるように繰り下げ制度をより柔軟で使いやすいものとするため」となっています。
年金受給に関して、「損」「得」という表現は適切ではないと思いますが、ご自身の状況を総合的に考えて受給開始年齢を選択されてはいかがでしょうか。
ただ、繰り上げ受給は、できれば避けたいところです。
社内準備の4ステップ
このページでは、「社内準備の4ステップ」についてお伝えします。
ステップ1:新たな加入対象者となる従業員さんを把握します。
新たな加入対象者はパート・アルバイトのうち、つぎの条件をすべて満たす方です。
□週の所定労働時間が20時間以上30時間未満である。
→労働契約上の所定労働時間であって、臨時に生じた残業時間は含まれません。また、労働契約上、週の所定労働時間が20時間に満たない場合でも、実労働時間が2ケ月連続で週20時間以上となり、なお引き続くと見込まれる場合には、3ケ月目から加入対象となります。
□月額賃金が88,000円以上である。
→月額賃金88,000円は基本給と諸手当のことを指し、残業代・賞与・臨時的な賃金等は含まれません。
□2ケ月を超える雇用の見込みがある。
□学生でない。
→休学中や夜間部の学生は加入の対象となります。
ステップ2:社内における周知
・新たに加入対象となるパートさん、アルバイトさんに法改正の内容が確実に伝わるように社内周知します。
ステップ3:従業員とのコミュニケーション
・必要に応じて説明会や個人面談を行います。個人面談の際に伝えるポイントはつぎのとおりです。
①社会保険の新たな加入対象者でること。
②社会保険に加入するメリットを伝える。
③今後の労働時間などについて話し合う。
ステップ4:被保険者資格取得届の届出手続き
→従業員数が101人以上500人以下の企業の場合は、令和4年8月までに日本年金機構から新たに加入対象となることを知らせる通知書類が届きます。
社会保険適用拡大の3つのメリット
このページでは、「社会保険適用拡大の3つのメリット」についてお伝えします。
メリット1:「社保完備」で求人の魅力アップにつながる。
→あるアンケートによれば、パート従業員さんの6割が「社会保険に加入できる求人」を魅力的と答えているそうです。
メリット2:「キャリアアップ助成金」を受給することができます。
→「キャリアアップ助成金」に「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」というものがあります。このコースは社会保険適用拡大の施行期日より前に労使の合意によって社会保険の適用拡大を図った場合に受給できるものです。
具体的には、従業員数101人以上500人以下の会社の社会保険適用拡大の施行日は令和4年10月1日からですので、令和4年9月30日までに労使の合意によって、社会保険適用拡大の対象となる従業員さんの基本給を2%から14%の範囲で増額した場合、190,000円~132,000円受給できます。
従業員数が51人以上100人以下の企業は令和6年10月1日より、社会保険適拡大の対象となりますが、令和4年9月30日までに労使合意によってパートさん、アルバイトさんの社会保険の適用拡大を行うことで「キャリアアップ助成金」を受給することができます。
従業員数50人以下の企業については、社会保険の適用拡大について任意ですが、令和4年9月30日までに労使合意によって社会保険の適用拡大を行うことで「キャリアアップ助成金」を受給することができます。
メリット3:生産性向上のための補助金が優先的に受給できます。
→生産性の向上に取り組む中小企業を支援する「中小企業生産性革命推進事業」では取組内容に応じてつぎの3種類の補助金を受給することができます。
①ものづくり補助金・・・最大1,000万円
②持続化補助金・・・最大50万円
③ⅠT導入補助金・・・最大450万円
補助金は審査を経て採択される必要がありますが、選択的適用拡大を行った企業は応募要件が緩和されたり、審査の加点項目となるなど、優先的に支援を受けることができます。
事業主の皆さまへ
事業主のみなさま方におかれましても、新たな保険料負担が生じることとなりますが、「被用者保険(厚生年金保険・健康保険)の適用拡大」を図っていくことで、「福利厚生の充実」「企業イメージの向上」「人材の定着」などに資することができるのではないかと思います。
年金制度改正法には以下の内容が規定されています。
①「被用者保険(厚生年金保険・健康保険)の適用拡大」
②「在職中の年金受給(在職老齢年金)のあり方の見直し」
③「年金受給開始時期の選択肢の拡大」
④「確定拠出年金の加入可能要件の見直し等」
ご不明な点がございましたら、社労士事務所オフイスマツムラまでお気軽にお問い合わせください。
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